代表野口_黒バック 「今週の一言(いちげん)」第65話社長が責任を果たすために一番時間をかけるべき重要な業務とは?

5月18日

子供はいますが、仕事を継いでくれる後継者がいないから、事業は大きくできないですよ。食っていくだけ、こぢんまりやりたいんです。このままの売上でいいんです。

いままでやってこれたから、従業員と一緒にあと10年過ごせれば、極楽です。」

 

三年前、赤字があり、借入金もあるのでと相談に来られた社長さんがいました。

その会社、なんと今年度黒字です。

良かったですね、さあ、ここからですね、収益の拡大を狙う計画をと話をむけると、

「おかげ様で、利益が出るようになったから、あとはこぢんまりやります」

と、話されます。

 

聞けば、右腕になって仕事を手伝ってくれた娘さんを、嫁がせたい。

会社を手伝うために、幸せをのがさせては親として不憫だ。

従業員達は、自分と同じ世代だから、一緒にこの事業をやってお仕舞いにしたい。

 

休み無く仕事をしてきた30年でした。

もちろん工場の休日はあるのですが、社長は、休日も書類の整理や研修、新製品の見学会と毎週のように東京へ出張していました。

 

地方の会社で製品が時代遅れになることがないようにと、いつも考えていました。

新しい情報を取り入れるために、若い人材がいいと考えましたが、従業員は同年代。

そこで、娘さんに、同行してもらう、PC周りを援助してもらうようになりました。

 

娘の退職の決意も、娘さんの幸福を願う親の気持ちも、そうだろうな、良かったと思う嬉しい出来事です。

 

では、事業規模の縮小をお考えですか?と話を向けると、「ええ、そこですが」と社長さんは、嬉しそうに話し始めました。

 

大きな工場を賃貸で借りていたが、規模を縮小すれば、大きな工場は不要になる。

そこで、自分の土地に小さな工場を建てれば、賃貸費用の負担は減少する。

自分の敷地に自分の工場であれば、借金を払っても払い甲斐がある。

10年で返済出来る計画にすればだが、それで手バタキ、全部終わりにしたい。

 

なるほど、社長さんには、考えていた計画があったのです。

 

そこで、従業員さんのことは大丈夫ですか?と話を向けると帰ってきた答は、

「現在の工場から車で5分ほどだから、従業員の通勤に問題は出ないと思う。

彼らからも問題はでないよ。」

 

いえ、10年で退職してもらうという計画に同意があるのですか?

そのときに退職金は支払うのですか?

 

会社の全責任をオレがとる!そう覚悟されている社長さんは、多くいます。

社長が引き受けている責任とは、「商品の瑕疵」と「銀行借入金を完済すること」だけではありません。

 

社長にとって重い責任をとは、従業員とその家族への責任です。

人を雇用するとは、会社で働く従業員の生活を保証すると言う責任を負います。

さらに、人には自分のいる場所で、自分の才能を花開かせたいという人間本来の「自己実現欲求」もあります。

 

全てを雇用主の社長が実現するものではありませんが、この会社にと期待して入社した従業員は、そこに自己実現できる関係を作りたい、評価されたいという淡い期待をもつから、仕事に励む意欲に繋がるのです。

 

この意欲をへし折るのが、「オレの作った会社だから、オレの代で閉じるのがオレの責任」という、責任と自分勝手の混同です。

 

先がない会社に居続けたいと考える従業員が、いったい何人いるでしょうか?

社長がつぶすと分かっている会社で、それでもいい製品を作っていこうと思う従業員は、いったい何人いるのでしょうか?

努力して、納期に間に合わせようと力をだす従業員はいったい何人いるでしょうか?

 

自分の食い扶持を稼げればいい経営をしている経営者は、従業員にも自分の考えを押しつけます、従業員も食べていけさえすればいい、と。

自分が10年で退職したいと考え、従業員も同年配だから、きっと同じだろうと決めつける。

 

ウチの従業員は、ものを考えない、と言う社長の下には考えない従業員が増えます

ものを考えない従業員が、いい仕事をしますか?

お客様を満足させますか?

 

社長の考え以上の事は、社長の会社では実現しません。

会社は、まさに社長の子供と同じ、無意識に従業員を無視すれば、従業員からも無視される、ようになります。

 

会社は、お客様にも従業員にも、取引先にも、満足がなければ、つぶれます。

たかだか10年と言う無かれ、一生懸命やっても10年持たないご時世に、気合いの入らない経営で、これから10年同じ売上と利益がとれるわけがない。

 

社長が10年で退職したいと考える、それは社長の人生にとって大事なスケジュールです。

その実現に向けて進もうと考えたときに、必死で考えなければいけないのは、社長が退職しても、お客様も、従業員も、取引先も関係者が皆、豊になっている状況をどう作り出すかと言う計画です。

 

「会社自体を売ることも、従業員に会社を譲ることも、アリですね。後継者は娘ばかりではないわけだ。どういう会社になりたいか、それが事業目的ですね。」

「事業目的なんて、事業計画書の一部、銀行借入用に作ってもらうものと思い込んでいました。百年の計とは、本当にその通りですね。」

 

会社経営者には、社会的責任も人道的責任もあります。

社長が責任を果たすとは、会社を長期的に繁栄させる目的を明確にする事です。

その目的こそ、社長の寿命より永く永く社会に貢献する優良な会社を作る礎です。

 

社長が、時間をかけて取り組むべき最重要業務は、100年続く会社の礎・事業目的を明確化すること。

そして、自身も周りの人たちも、豊になるために、目的の上に事業計画となる数字の目標をのせて 従業員と共有する事です。