代表野口_黒バック 「今週の一言(いちげん)」第6話経営者が注視すべき数字には、業績を伸ばす数値と経営をダメにする数字の2種類があります。

「だいたい数字なんて、会計事務所が終わったことをアーダコーダ言うためだけのものだ。数字を言ったって売上あがるわけない。経理あがりより 営業上がりの社長のほうが、当たり外れがあるけど、儲かるヤツはこっちの方がうんと多いんだ!

 

縫製工場を経営するS会長は、3年前に息子さんに社長業を委譲しました。

お得意先営業一本槍で事業拡大してきたS会長に対し、息子のS社長は、営業はムリせず取引条件や納品日数などに細かく気を遣うタイプ。

 

そのS社長が、3年たって繰越欠損金が消えたとS会長に報告したとたん、なぜか怒りの一言となりました。

 

この会社は、大手の世界的ブランド製品の縫製を行っています。

S会長は、大手ブランドの一つのアイテムだけでも世界規模の販売数を、それがムリなら日本国中の販売数だけでもとれば、売上高はそこそこ、利益も十分と考えました。

 

目標は、ワンアイテムを絶対とる。

そこでS会長のとった営業手法は、大手ブランドメーカーの営業部長への接待攻勢です。

自身もばっちりブランドの服を着込み、高級車でお出迎えしてゴルフ場へ、その後縫製工場を見ていただき、歓談をする。接触時間の長さをとことん実践です。

 

デパート・専門店のバイヤーに、毎日日参。

「Sさん、ここに机おいていいよ。」といわれるほど取引先仕入担当と一緒の毎日です。

仕事帰りはもちろん「銀座」「麻雀」「カラオケ」体にむち打ち営業です。

 

もちろん、華々しい売上がありました。個人的にも豊かになったと思っていましたが、

この10年は決算のたびに会計事務所の先生から「今年も損失です。」

「繰越損失は、ずいぶんたまりました。経費を削減してください。」

 

まじめなS会長は、息子に譲る前に絶対利益を出してから委譲したい。

自分の別荘や使わなくなった工場跡地を整理して、損失を埋めました。

大手ブランドメーカーも日本生産から撤退する事となり、社長を息子に引き継ぎました。

 

S会長は大手ブランドの営業部長との会話を思い出しました。

「Sさん、ウチだけだと危険じゃないの?」

「いえいえ、コトコトン御社について行きます!」

S会長は、一社に絞ることが、相手への誠意と思っていたのです。

 

経営をダメにする数字は「1」です。

1つのブランド、1つのアイテム、1つの得意先、一人の営業担当者、一つのセールストーク、、、「1」があるなら依存状態を生んでいる危険があります。

1つに依存していると、それがなくなった時には、全てを失います。

 

息子のS社長は、かつて自社の製品が展示されていたデパートに出かけました。

ブランド商品を扱うフロアには、いくつかのブランド別コーナーがあります。

しかし、どのコーナーの製品も驚くほどのお値段!!え、これ一着20万!

 

世の中にこの値段で服を買う人がいるという驚き、自社の得意な客層は、ここだったんだ!という驚き。この層のお客様が好む縫製・ボタン付け・生地の肌触りやちょっとしたタックの取り方、そう、このお客層を虜にする縫製はうちの得意と確信したのです。

 

おそるおそるデパートのバイヤーに声をかけました。

以前から高級品を縫製していたS社の技術力は高く評価されていたようで、バイヤーも早速に取引先の数件に声をかけました。

徐々に数社のブランドを製造するようになりました。

 

S社長、自社の製品を買うお客様をデパートの1着20万円女性客としました。

各ブランドとの取引金額は、多くて売上全体の21%。一社頼りから抜けました。

製造工程を見直して、職人の技の一部をパートでもできるマニュアルも作成しました。

製造行程を標準化して、納品までの日数を商談の段階で確約できるようにしたのです。

 

一社あたりの取引金額は、従前の世界的ブランドには及びませんが、以前と違って大幅なコストダウン要求やや大量発注を受けての外注費増加もなく、安定した製品の品質・納期内の納品で、利益率はきっちりとれていきました。

 

業績を上げる数値は、ビジネスの全体像を示す数値です。例えば、客数や客単価・納期日数などの業務の数値や、売上金額や利益率など貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書などに示される財務の数値です。

どんな会社でも使える万能な事業指標数値は存在しません。

それぞれの会社・経営者にとって優先すべき目標の数値が事業指標だからです。

 

経営者は、社員と話たり、商品の動きをみておおよその経営利益を想定しています。

経営者の儲かる直感です。

この直感で思ったことを裏付ける数値があって、問題を解決できます。これはたった一つではありません。経営は営業も財務も製造も有機的に結合しているからです。

 

会計事務所のつくる財務の数字だけで、会社全体を見回す事はできません。

営業だけの数字でも、片手落ちになります。

戦略的な目標はなにか・製造行程・営業システムは目標にそってスムーズかを見回す時キーになる数値が見えてきます。その数値は決して1つではありません。

なぜなら、安定して発展するには、多様性が必要だからです。

 

数字を会計事務所の特許だと思っていませんか?

あなたのビジネスを全体像で捉える数値を持っていますか?