代表野口_黒バック 「今週の一言(いちげん)」第40話20着も同じ服をオーダーする熱烈なファンがいるから、ブランドになる。

「不思議でしょうがない。同じ形の服を、もう20着も買ったお客様がいるんですよ、おかしくありませんか? いえ、生地は違いますよ。そうですね、確かに見た目の雰囲気は違うかもしれませんね。でも形は同じです。全く女の人は分からない。」

 

イージーオーダーで婦人服を製造販売しているこの店舗には、驚異的な購入回数を誇る顧客がいます。一人や二人ではありません。十数名を数えます。

しかも同じパターンの服を何度も何度も繰り返し買ってくれる熱烈なお客様。

 

店舗のオーナーは、女性です。副店長は彼女の夫。

一般企業で働いてきた男性の経済常識からすると、一体何で同じ形のモノを繰り返し購入するのか?お客様の気持ちが、全く分からない。

家計を支える夫の立場で考えると、お金の出所も不安になります。

 

律儀な副店長は、痴呆症の高齢女性に無理やり同じモノを購入させる悪徳業者に自分がなるのではあるまいか?という不安さえ感じています。

地方都市で、あの店はたくさん同じ商品を買わせて、などと評判がたったら大変。

誠実な商売をしたい自分たちは、注意すべき事態だと妻であるオーナーに話します。

 

オーナーも、そうだな、大丈夫なのかな、と不安になってきました。

無理やりな販売方法をしているつもりは無いけれど、もし無理強いなら結果的にお客様は去って行ってしまう、そうなる前に改善すべきは改善しよう。

 

さて、店舗には、デザインを担当するオーナー夫妻の娘の他に、縫製担当や、販売担当など数名の女性従業員がいます。

オーナーは、まず、彼女達にどう見えているのか聞いてみることにしました。

 

「着ていこうと思うシーンは、違っていますよね。どこに出かけるか?じゃないですか。シーンに応じた服の雰囲気があるから、楽しんでいらっしゃるようですね。」

「無理強いではありませんよ、副店長さんは女性の気持ちが分からないのよ~。」

「だって、あの方は、できるなら店の品物全部買い占めたいのよ。他の人が、同じモノを着ていたら絶対憤慨するもの。自分のためだけに存在する服を着たいの!」

 

従業員の話から分かったこと、それは、同じ形の服を20着購入される熱烈なお客様は、正(まさ)しく「ファン」だということ。

 

熱烈ファンのお客様にとって、ファッションは、必需品では無いのです。

必需品であれば、服は用途に応じて数着あれば、事足りるはずです。

でも、この熱烈ファンのお客様にとっては、オーナーの作り出す服が自分向けに作られているかのように感じ、ファンとして所有することが、最大の目的です。

 

モノが沢山売れて収益が上がるのではなく、ファンが育って収益が上がっている。

ふと、「あら、私の服は、おばちゃん達のルイ・ヴィトンになっているのかしら」

 

熱烈ファンのお客様は、どちらかというと「ぽっちゃり」系

しかし、見た目上品そうに見せたい、「高齢お嬢様」系

そして、「あなたに合った生地を仕入れたの。」といわれたい「特別扱い大好き」系

 

有名人なら、人気漫才コンビ大助&花子の花子さん(かわいいです。ゴメンなさい)

花子さんの着ているブランドをほしい人は、どうしてもそのブランドがほしい、他では満足しない人です。

 

好みのうるさい女性客達に、焦点を合わせたのは、単なる偶然です。

友人の一人から、「私には自分の好みに合っていて、しかも自分の体型に似合った服が、見あたらない。だから作って」と頼まれたのです。

 

しかも、このタイプのお客様は、仮縫い・試着などで何度も自分の体を意識するのは本当に辛いと感じる人たちです。

一回でスンナリ着心地良く、気分良く、満足できる買い物がしたいと思っています。

その気持ちを裏切ってはいけない、逆なでしない、顧客でいていただく大条件です。

 

いままでどおりの販売常識、服は必需品と考えると、一人のお客様は、ワンシーズンで数着の購入しか実現しません。

売上を上げようと考えると、売上=商品単価×客数、どうしても客数を増やさなくてはという思いに駆られます。

安売りしてもいいからお客様を増やしたい、それは大手の発想です。

 

オーナーは、発想の転換を迫られました。

自社の規模では、量を前提とした販売で収益を上げ続ける事はできないのに、まるで大手と同じように販売数を狙う営業方法に頭が縛られていたのです。

 

必要だから購入するお客様は、大手のお客様。

必要だから購入するお客様は、機能と価格で選別してきます。

小さい企業は、少人数でも利益が確保できる戦略をしていくべきです。

お客様独自のファッションブランドを提供して、ファンを増やす戦略です。

 

売上の数字は、良くても悪くてもその原因をハッキリさせないと次の一手を間違えてしまいます

購入された20着がブランド化に繫がっているのだと分かれば、ブランド化を推進していけます。

しかし、20着が無理やり販売であれば、どこかで大きな売上ダウンに繫がります。

 

デザイナーの娘が、オーナー夫妻に、こう話しました。

「ウチのお客様って、お店の中で困りごとの話は、しないですよね。いらっしゃっている間はずっと、服を楽しんでいる方ばかり。前に購入した服がダメだったということもなく、高い安いも言うことが無く、自分のお金のできる範囲でお楽しみをしてらっしゃるだけ、だと思うの。たぶん、我が家より豊かな状態なんだろうな。」

 

エルメスの店舗に入って、まず値札を見て歩くお客様はいません。

「いいものを見よう。価値ある品物に触れよう。」そう考えて入店する客が多いはずです。それがブランドです。

 

価値を共有できる人=顧客を増やすことが、エルメスの目的

買え買え言わずとも、ほしい人が必ずいる確信を持って展示しているのです。

 

オーナーは、値付けの仕事を、デザイナーの娘に行ってもらう事にしました。

デザイナーの娘は、婦人服についていた大きな値札をハズしました。

ゆっくり試着してもらい、着用するシーンを説明して、価値を理解いただいてから、値段を提案しようと考えたからです。

 

これからも、繰り返しご利用いただける熱烈なファンづくりを行っていこう。

熱烈なファン、普通のファン、これからファンになってほしいお客様、お店全員が同じ基準でお客様に接するマニュアルを作ることから始めます。

小さくてもブランドにしていく、戦略がハッキリしました。